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『イキガミ 10』選択肢を提示する権力の卑劣

2012年05月03日

間瀬元朗『イキガミ』は国民に生命の価値を再認識させるために「国家繁栄維持法」(国繁)という法制度のある日本に似た「この国」が舞台である。全国民の1000分の1に逝紙(イキガミ)という死亡予告証が届けられ、逝紙が届けられてから24時間後に確実に死ぬ(国繁死)という恐ろしい制度である。松田翔太主演で2008年に映画化された。

『イキガミ』の主人公は逝紙を配達する藤本賢吾である。藤本が逝紙を配達することで、受け取った相手は自分が24時間後に死亡するという辛い現実を突然知ることになる。その現実に直面した本人や家族の葛藤が物語の中心である。逝紙配達後24時間で死亡するという設定は絶対的で、制度を曲げて人情味のある結末にはならない。暗い絶望的な結末が多いが、その圧倒的な絶望感に引き込まれる読者も多い。

24時間後に死亡するという絶望的な状況に置かれた若者の様々な行動をオムニバス的に描いてきた『イキガミ』であったが、ようやく制度に問題意識が向かってきた。イキガミの存在理由が明かされる中で浮かび上がったものは権力の卑劣さである。

人間は少しでも自分にメリットのある選択をしようとする。そこに権力は付け込む。最悪の選択肢と最悪より少しましな選択肢を与えることで、自発的に後者を選択するように仕向ける。与えられた選択肢の中で少しでも良い選択をすることに汲々とするのではなく、選択肢を提示する非合理な制度そのものを疑問視しなければならない。

これは林田力にも思い当たる。林田力は東急リバブル東急不動産から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされ、消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、売買代金全額を取り戻した。裁判中には契約の取り消しは難しいから、損害の填補で我慢しろというような圧力を受けたこともある。損害の填補は泣き寝入りよりは、ましである。しかし、東急不動産の問題物件に住み続けなければならない。よりましな選択という枠組みに囚われず、契約の取り消しという根本的な解決を貫いた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社)。

『イキガミ』では国繁という欺瞞の体制の行く末は描かない。主人公が語るように結末は逃避である。しかし、国民の大部分が露骨な徴兵には怒りを示しても、与えられた選択肢の欺瞞に気付かず、よりましな選択をしてしまう状況では、逃げるという選択を非難できない。
http://yaplog.jp/hayariki/archive/621

現代の日本には国繁のような露骨な不合理は存在しない。しかし、体制側が不合理な選択を迫る状況は珍しくない。福島原発事故に対する東京電力の損害賠償案は一例である。雀の涙ほどの賠償金で我慢するか泣き寝入りするかを迫るものだからである。日本の庶民の側にも他の同種被害者よりも少しでも美味しい思いをしようと個別取引に乗っかり、自分よりも悲惨な境遇の人を下方比較することで満足する醜い傾向があることを否めない(林田力「区画整理・再開発反対運動の脆さと方向性(上)」PJニュース2010年8月30日)。
http://hayariki.net/manga.htm#19
主人公はラストで希望を持って目的地を述べたが、そこまでの希望が今の日本に存在するか、読者に難しい問いを突き付ける。(林田力)
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白竜LEGEND 22巻

2012年04月17日

天王寺大原作、渡辺みちお画『白竜LEGEND』は独立系暴力団・黒須組の若頭・白竜こと白川竜也を主人公とした作品である。話の中心は暴力団のシノギである。稲川会による東京急行電鉄株買占め事件など現実に起きた事件を下敷きにすることが多く、劇画的な意味でのリアリティがある。

第22巻は前巻から引き続き、「野獣空港」編である。単行本では複数のエピソードが収録されることが多いが、この巻では丸々「野獣空港」編である。しかも完結していない。敵はゼネコン、都知事、暴力団、主人公サイドも白竜と下請け建設会社というように複数のアクターが各々の思惑で動いている点が物語を複雑にしている。

「野獣空港」編では大手ゼネコンとヤクザの癒着をあからさまに描く。東急建設が暴力団系企業を下請けに使ったことも明らかになっており、タイムリーなテーマであるが、この巻では一歩踏み込む。建設会社が暴力団と癒着することについて、建設会社側は暴力団からの嫌がらせを避けるためと言い訳することが多い。

実際、東急建設も警視庁組織犯罪対策3課に「暴力団を懐柔しないと暴力団の嫌がらせを受ける」と釈明したという(「暴排通告企業脅す 道仁会系社長を逮捕」産経新聞2011年10月18日)。この種の言い訳によって暴力団と癒着した建設会社は自分達にも被害者的な側面があると自己正当化を図ることができる。

しかし、これは我が身かわいさの言い訳に過ぎない。「野獣空港」編のゼネコンはマスメディアに真実を話そうとする下請け建設会社を黙らせるために暴力団を利用した。暴力団と癒着する建設会社も市民社会の敵である。建設業界と暴力団の癒着の闇の深さを浮き彫りにする。

野獣空港編の面白さは下請け建設会社という弱い立場の存在が主人公サイドのアクターになっていることである。白竜という何事にも動じないチート的な存在が主人公である通常の展開とは異なる魅力がある。下請け建設会社には白竜のような知恵も力もない。普通ならばゼネコンに利用され、泣き寝入りさせられる存在である。

それが白竜に煽られてゼネコンと対決姿勢を示した結果、ゼネコン側の反撃で一層窮地に追い込まれてしまう。白竜に一杯食わされたとぼやきたくなるところである。実際、下請け建設会社社長は、それに近い発言をしている。

しかし、それで終わらないところが、下請け建設会社の偉いところである。泣き寝入りをしたところで、それにゼネコンが恩義を感じることはなく、潰されるだけだと分析する。故にゼネコンとの対決姿勢は正しかったと結論づける。
http://news.livedoor.com/article/detail/6459593/
残念ながら、ここまでの考えに到達できる人は現代日本では少ない。大企業などはアメとムチで消費者や労働者、下請け企業など立場の弱い人々に迫る。アメが本当にアメならば一応は取引として成り立つが、往々にして悪徳企業はアメの期待を持たせるだけで何らのコミットもしない。用が済めば弱者の期待は裏切られる。
http://yaplog.jp/hayariki/

ところが日本では甘い期待から戦うことを放棄し、すりよってしまう愚か者も少なくない(林田力「ネット右翼は東京都青少年健全育成 条例で目を覚ませ」PJニュース2010年12月20日)。下請け建設会社社長のような腹をくくった人が多ければ閉塞感漂う日本社会も、もっとましなものになるだろう。
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バクマン。 17

2012年03月20日

林田力,銀魂―ぎんたま― 43 2012年02月19日
http://news.livedoor.com/article/detail/6293544/
林田力,SOUL 覇 第2章 1 2012年03月18日
http://news.livedoor.com/article/detail/6380762/
林田力,バクマン。 17 2012年03月11日
http://news.livedoor.com/article/detail/6358800/
林田力,BLEACH―ブリーチ― 54 2012年03月11日
http://news.livedoor.com/article/detail/6358801/
林田力,BILLY BAT(8) (モーニング KC) 2012年03月07日
http://news.livedoor.com/article/detail/6347512/
林田力,新築マンション購入失敗とトラブル共有の重要性エキサイトニュース
http://www.excite.co.jp/News/society_g/20100811/Real_Live_1104.html
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『BILLY BAT』第8巻、YAWARAと対照的な脱力系ヒロイン

2012年03月11日

浦沢直樹がストーリー共同制作者に長崎尚志を迎えて『モーニング』に連載中の漫画『BILLY BAT』第8巻が、2月23日に発売された。歴史的事件の背後に存在するコウモリ・ビリーバットの謎を描くミステリー作品である。

ケヴィン・ヤマガタら登場人物達の奮闘も虚しく、歴史通りにケネディ大統領は暗殺される。暗殺犯はオズワルドと断定され、そのオズワルドも暗殺される。過去を舞台としたSF作品は歴史のIFが醍醐味であるが、その結果として史実から離れすぎると物語が収拾つかなくなる。ケネディ暗殺の顛末をあっさりとまとめたことは物語が現実の一断面らしさを失わない効果を持たせる。

ヒロイン的存在のジャッキー・モモチは浦沢作品の女性キャラに新たな魅力をもたらした。浦沢直樹は『YAWARA!』の猪熊柔や『20世紀少年』の遠藤カンナなどバイタリティ溢れるカッコいい女性を描いてきた。これに対してジャッキーは脱力系である。現代は『YAWARA!』連載時のバブル経済期のイケイケとは異なり、閉塞感漂う時代である。謎を追及するキャラクターらしからぬジャッキーの脱力ぶりは、肩肘張って綺麗事を主張する女性キャラクターに食傷気味の読者を惹き付ける。

舞台は再び日本に移る。畳にも座り慣れないという日系3世ジャッキーの日本人離れしたスタンスが新鮮な笑いを誘う。外見は日本人と変わらないが、アメリカで生まれ育ったジャッキーにとって日本は異郷でしかない。日本人は日系人ということで勝手に日本人と同じ感覚を期待しがちである。かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』では米海軍の空母の艦長に日系人が登場するが、自分が日系人であることの意味を問い続ける存在に描かれた。それに比べるとジャッキーは自然体である。

舞台が日本に戻ったことで戦国時代の忍者のエピソードが意味を持ってくる。当初、『BILLY BAT』は下山事件という戦後史の闇に光をあてる作品として注目された。しかし、その後に続いた忍者のエピソードは現代史を楽しみにしていた読者を裏切るものであった。

浦沢作品では『MONSTER』や『20世紀少年』でも過去と現在のエピソードが同時進行し、長い作品の中で少しずつ意味が分かっていく手法が採られる。その点で最初は意味が分からなくても当然であるが、あくまで『MONSTER』や『20世紀少年』では同じ登場人物達の過去と現在で一つの物語の中の話と理解できた。これに対して『BILLY BAT』はイエス・キリストの磔のエピソードが登場するなど話が飛びすぎている。

ようやく第8巻で戦国時代の巻物が本編に結び付いた。この巻でも戦国時代のエピソードが挿入されるが、どれもコンパクトにまとめられている。スピードアップした展開に期待したい。(林田力)
http://hayariki.net/manga.htm#2
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『銀魂』第43巻、ゼロゼロ物件業者への対抗価値

2012年02月24日

空知英秋が『週刊少年ジャンプ』で連載中のSF時代劇漫画『銀魂』が面白い。2月3日に発売された単行本の第43巻は金魂編がメインである。『週刊少年ジャンプ』2011年44号掲載の金魂・第一訓「ストレートパーマに悪い奴はいない」から突入した。

金魂編は優等生的な坂田金時に主人公を乗っ取られるという斬新な展開である。金時は主人公の坂田銀時とは金髪でストレートパーマという点が相違するが、男気が溢れ、稼ぎもよく、志村新八や神楽ら仲間達から心酔されている。完璧な金と欠点だらけの銀が対比される。

金魂編では作品のタイトルまで「金魂」に変わっているという徹底ぶりである。単行本の表紙も第1巻と同じ絵柄で主人公が金時に変わっているとの遊び心がある。『週刊少年ジャンプ』連載時には分かりにくかった『銀魂』本来のサブタイトルと「金魂」としてのサブタイトルが目次で整理されている。

掟破りの展開に加えて他作品のパロディなどギャグ満載の金魂編であるが、メッセージ性も強烈である。それは優等生的な金時よりも不完全な銀時に魅力があるという主張である。結末の会話がコミックスでは変わっており、より不完全性の魅力を強調する内容になった。

完璧な人間よりも欠点やドジなところがあった方が魅力的なキャラクターになる。これはキャラ作りの鉄則である。尾田栄一郎『ONE PIECE』第65巻では読者の質問コーナー「SBS」で、主人公のルフィよりも強力な能力者が続々登場していることに対し、著者は「ゴムのような面白さがなければ長く付き合えない」と答えている。バトル漫画でも圧倒的な強さが必ずしもキャラの魅力になるとは限らない。

しかし、単に親しみをもたせるために不完全なキャラにするだけならばステレオタイプ化する。『銀魂』第42巻収録の「漫画という画布に人生という筆で絵を描け」では漫画家志望の持ち込み原稿の主人公が皆、「腹減った」という食い意地が張ったキャラであることを風刺している。

世間的な意味での優等生に魅力はないが、単に欠点を持たせるだけでも面白味がない。欠点や長所でないと考えているものに新たな価値を付加してこそクリエイティビィティである。『ONE PIECE』のルフィは強そうではなくても、面白さという漫画ならではの価値でゴム人間となった。

銀時の不完全性にも価値がある。金時によって修正された銀時の欠点の一つに家賃滞納がある。味方のたまにも家賃滞納を忘れないと言われるほど、家賃滞納は強調されている。家賃を滞納するキャラクターが善玉で、家賃を支払うキャラクターが悪玉である。家賃滞納は一般的には好ましいことではないが、昨今は家賃滞納を口実にした不法が横行し、社会問題になっている。

賃貸不動産では賃借人を食い物にする貧困ビジネスが跋扈している。ゼロゼロ物件などでは僅か一日の家賃滞納に過酷な追い出し屋の嫌がらせや高額な違約金請求が行われている。サラ金でも行われない未明の家賃取り立てや嫌がらせの貼り紙を繰り返す。また、無断で家屋の鍵を交換して高額の鍵交換費用を請求する。さらに無断で家屋に浸入して家財を処分・換金してしまうなどの人権侵害が行われている。

この種のゼロゼロ物件業者の追い出し行為が許されざる人権侵害であることは当然である。一方で「盗人にも三分の理」という言葉があるようにゼロゼロ物件業者にも拠り所となる論理がある。それは「家賃を払っていない賃借人が悪い」「文句があるならば家賃を払え」である。

家賃滞納という単なる債務弁済の遅延は、違約金請求という暴利行為や追い出し屋の人権侵害を正当化する根拠にならない。しかし、残念なことに人権意識の低い後進的な日本社会では、ゼロゼロ物件業者の論理に同意してしまう人々も少なくない。それ故に「住まいは人権」という論理が重要になる(林田力「マンション建設反対運動は人権論で再構築を」PJニュース2011年6月17日)。

「確かに『支払いを遅らせたのは,あなたでしょう!」と厳しく言われたら,なんとなく「そうかな』と思ってしまうかもしれないが,それが全てを根こそぎ奪い取ることを正当化する理由にならないことは,また,よくわかることだろう。」(津久井進の弁護士ノート「ゼロゼロ物件被害にみる形式的コンプライアンス」2008年7月18日)

ゼロゼロ物件被害者は家賃滞納に後ろめたさを感じる必要はない。家賃を滞納し、自己を不完全な主人公と認める銀時のように堂々と業者の不法を訴える資格がある。家賃滞納という属性は親しみを持たせるための単なる欠点というよりも、家賃滞納者の弱みに付け込む貧困ビジネスに対抗する価値を生み出している。

ゼロゼロ物件の被害者が被害者でもあるにもかかわらず、家賃滞納者ということで逆に非難される傾向のある日本社会において、家賃は滞納するが、真っ直ぐな魂を持ったヒーローという設定の『銀魂』はゼロゼロ物件業者に対抗する価値を生み出す効果がある。

『銀魂』はパロディや下ネタが多く、PTA推奨という意味合いでの教育的な作品ではない。しかし、単行本第40巻収録のギャグ短編では携帯メール依存症を批判した。また、第7巻収録の第54訓「人の名前とか間違えるの失礼だ」で、追伸の使用をカッコいいと勘違いする無学者を風刺するギャグを描いた(林田力「追伸に対する一考察」PJニュース2010年12月25日)。教育的作品の説教臭さとは無縁ながら、教育的価値を盛り込む『銀魂』に大いに期待する。

主役について考えさせられた金魂編であるが、準主役の立ち位地も考えさせられる。銀時、志村新八、神楽の三人が万事屋トリオで、新八と神楽は他の脇役とは格が違う。かぶき町四天王編では新八が椿平子、神楽がマドマーゼル西郷を倒すという見せ場を作った。

これに対して金魂編では二人の存在感が薄い。仲間との絆の確認では月詠、九兵衛、さっちゃんとのシーンが印象的である。『銀魂』が歴史を重ねて魅力的なキャラクターを作ってきたために相対的に当初の主要キャラの活躍が少なくなった。

一方で金魂編の後半では万事屋トリオに志村妙を加えた四人を、はじまりの四人と特別視する。新八や神楽が一般レギュラーと同じレベルになるか、準主役扱いを維持するかにも注目である。(林田力)
http://hayariki.net/hayariki.htm#16
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