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過去の敵への態度に注目『ONE PIECE 第51巻』:林田力

2011年10月03日

本書(尾田栄一郎『ONE PIECE 第51巻』集英社、2008年9月4日発売)は週刊少年ジャンプで連載中の漫画の単行本である。架空の世界を舞台に、主人公モンキー・D・ルフィ率いる麦わら海賊団が「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を求める冒険漫画である。

この巻で麦わら海賊団は過去に戦った敵(ハチ)と再会する。主人公達が過去に戦った敵を助け、過去の敵が味方になるという展開は少年漫画ではパターン化されたもので珍しくない。本作品は、その大枠から外れるものではないが、単なるワンパターンに陥っていない。

ルフィは自分達が助け出そうとする人物が過去に戦った敵だと知って「おれ達はお前なんか助けねェぞ」と言い放つ。最終的には助けることになるが、最初は過去の因縁を理由に救出を拒否する姿勢をとったところが面白い。

日本人には過去を水に流すことを是とする非歴史的な傾向がある。幕末において激しく憎みあっていた薩摩と長州の手を結ばせた坂本竜馬の人気の高さが物語っている。過去にとらわれず、未来を考えることを美徳とする発想である。

一方で、これは戦争中に鬼畜と罵った敵国を戦後は同盟国と呼ぶような無節操さにもつながる。行政や企業の不祥事が繰り返され、一向に改善しない実態も根本的には過去を直視して反省できない非歴史的な体質がある。

漫画の世界でも昨日の敵を安易に今日の友とすることで、日本社会の非歴史的な体質を反映してきた。過去にどれほどの悪行をした人物であっても、今が可哀想な状況にあるならば助けるのがヒーロー像であった。しかし、そのような展開は飽きの対象になる上、過酷なイジメ社会を生き抜いている子ども達にとってリアリティのないものと映る。

中国では死体を鞭打って恨みを晴らした伍子胥が英傑として評価されている。しかし、過去の敵の窮地を「ザマーミロ」と笑って傍観するヒーローを許容できるほど、日本社会は成熟していない。故に最終的に主人公達が過去の敵を助ける結論自体は止むを得ない。そもそも主人公と絡まないならば、過去の敵を再登場させる必要もない。

最後には助けるという結論は動かせないものの、本作品の秀逸さは、ハチとの再会時に麦わら海賊団が因縁を忘れず、敵意をむき出しにしていることである。特にナミの感情を大切にしている。ルフィやゾロ、ウソップは敵として戦っただけだが、ナミは何年間もハチが幹部であった魚人海賊団に自分の村を支配され、苦しみ続けた。他のクルーよりも因縁が深いナミの気持ちを重視することは、過去のエピソードが大切にされている証である。

一方、ルフィは最初に「おれ達はお前なんか助けねェぞ」と言ったものの、たこ焼き食べたさに救出の方向に気持ちが揺れる。これは敵が、たこ焼き屋であるためである。現実世界ならば、たこ焼きが食べたいという理由で、過去にクルーを苦しめた敵を助けようとするならば、クルーの被害感情を逆撫でし、船長失格の烙印を押されるだろう。

しかし、最後には助けなければならないならば、たこ焼きを食べたいから助けるという動機の方が漫画的には面白い。少なくとも過去の敵でも現在は窮地に陥っているから助けるという優等生的な偽善者ではつまらない。食欲に動かされた方がルフィらしく健全である。

この巻で麦わら海賊団が新たに訪れたシャボンティ諸島では魚人が人間から激しく差別されていることが明らかになった。ナミの村を支配した魚人海賊団は人間を下等生物として見下していたが、実は被差別者の憤懣の裏返しだったのではないかとも推測される。差別や人身売買というような重たいテーマを扱いつつ、娯楽作品として仕上げている。新しいキャラクターも登場し、今後の展開からますます目が離せない。
http://hayariki.net/onepi.html
林田力スポーツ
http://hayariki.kakuren-bo.com/
 

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