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『BILLY BAT』第8巻、YAWARAと対照的な脱力系ヒロイン

2012年03月11日

浦沢直樹がストーリー共同制作者に長崎尚志を迎えて『モーニング』に連載中の漫画『BILLY BAT』第8巻が、2月23日に発売された。歴史的事件の背後に存在するコウモリ・ビリーバットの謎を描くミステリー作品である。

ケヴィン・ヤマガタら登場人物達の奮闘も虚しく、歴史通りにケネディ大統領は暗殺される。暗殺犯はオズワルドと断定され、そのオズワルドも暗殺される。過去を舞台としたSF作品は歴史のIFが醍醐味であるが、その結果として史実から離れすぎると物語が収拾つかなくなる。ケネディ暗殺の顛末をあっさりとまとめたことは物語が現実の一断面らしさを失わない効果を持たせる。

ヒロイン的存在のジャッキー・モモチは浦沢作品の女性キャラに新たな魅力をもたらした。浦沢直樹は『YAWARA!』の猪熊柔や『20世紀少年』の遠藤カンナなどバイタリティ溢れるカッコいい女性を描いてきた。これに対してジャッキーは脱力系である。現代は『YAWARA!』連載時のバブル経済期のイケイケとは異なり、閉塞感漂う時代である。謎を追及するキャラクターらしからぬジャッキーの脱力ぶりは、肩肘張って綺麗事を主張する女性キャラクターに食傷気味の読者を惹き付ける。

舞台は再び日本に移る。畳にも座り慣れないという日系3世ジャッキーの日本人離れしたスタンスが新鮮な笑いを誘う。外見は日本人と変わらないが、アメリカで生まれ育ったジャッキーにとって日本は異郷でしかない。日本人は日系人ということで勝手に日本人と同じ感覚を期待しがちである。かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』では米海軍の空母の艦長に日系人が登場するが、自分が日系人であることの意味を問い続ける存在に描かれた。それに比べるとジャッキーは自然体である。

舞台が日本に戻ったことで戦国時代の忍者のエピソードが意味を持ってくる。当初、『BILLY BAT』は下山事件という戦後史の闇に光をあてる作品として注目された。しかし、その後に続いた忍者のエピソードは現代史を楽しみにしていた読者を裏切るものであった。

浦沢作品では『MONSTER』や『20世紀少年』でも過去と現在のエピソードが同時進行し、長い作品の中で少しずつ意味が分かっていく手法が採られる。その点で最初は意味が分からなくても当然であるが、あくまで『MONSTER』や『20世紀少年』では同じ登場人物達の過去と現在で一つの物語の中の話と理解できた。これに対して『BILLY BAT』はイエス・キリストの磔のエピソードが登場するなど話が飛びすぎている。

ようやく第8巻で戦国時代の巻物が本編に結び付いた。この巻でも戦国時代のエピソードが挿入されるが、どれもコンパクトにまとめられている。スピードアップした展開に期待したい。(林田力)
http://hayariki.net/manga.htm#2
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